Page0001レコード大賞受賞以降、沢田のステージはますますビジュアル重視となってゆく。ファンは彼が新曲を発表する度に、どんなメイクで、どんな衣装で、どんな振付で登場するのか、絶えず期待に胸をふくらませた。普通の歌手が年に一度、紅白歌合戦で披露するパフォーマンスを、沢田は一曲毎に行っていたといえる。80年代に入ると沢田は音楽活動に加えてドラマ、映画、舞台にとその活躍の場を広げていった。それは恰もタイガース全盛時代から変わることのない圧倒的な存在感と呼べるものであった。そして彼はザ・タイガース同様、いやそれ以上のパワーで芸能界に「沢田研二」というブランドを確立するのだった。だがブランドの価値はあくまでも大衆の手に委ねられている。そしてそのブランド・イメージは大衆一人一人によって異なるものだ。年月を経て変貌を遂げた往年の大スターに、大衆が求めるものは決して一様ではない。もはや現在の沢田にタイガース時代の「甘さ」を求める者はいるはずもないが、三億円事件の犯人を演じた頃の「鋭さ」を渇望するファンは数多く存在する。その「鋭さ」こそが、妬み嫉みによるバッシングと闘い続けていた「孤高のロッカー」のイメージと重なり合うが故に。
 9月17日と24日の二週に亘り、NHK「SONGS」で沢田の特集が放送された。二週目の24日には彼のヒット曲を量産した加瀬邦彦氏をはじめ、現在も親交の篤い岸部一徳、森本太郎がゲスト出演した。番組のラストを飾った「Long Good-by」は沢田、岸部、森本の手によるもの(作詩の一番と二番を岸部、三番を沢田、作曲を森本が担当)で、この曲が瞳への思いを綴ったメッセージ・ソングであることはファンなら誰もが知っている。番組の中でこの曲の歌詞について岸部が語ったコメントは、公式の場を借りて発信された瞳に向けてのメッセージとも受け取れた。
 歳月は人の風貌を変えても、その生き様までも変えることはできない。
 史上最年長のドーム・コンサートに挑む沢田を突き動かしているものがロック魂であるならば、頑なに過去を拒絶し自ら選んだ学問の道を歩む瞳の中にも、孤高のロック魂が息づいているのではないだろうか。