その日、東京は久々の小春日和に包まれていた。
1971年1月24日、日曜日。
「ビューティフル・コンサート」と銘打ったザ・タイガースの最後のステージを観るため、日本武道館の周りには、午後2時からの開場を待ちきれないファンたちが、朝から群れを作っていた。
午後3時45分。前座のロック・パイロットの演奏が終わると、タイガースの登場を告げるアナウンスが場内に響き渡る。
「Say After Me Tigers!」
最初アナウンスの意味が理解できなかった少女たちも、繰り返される「Tigers!」の呼び声に呼応し、場内は「タイガース・コール」が湧き起こる。
その呼び声に応えるように、思い思いの出で立ちで次々にステージに現れるメンバー。そして最後に白いTシャツの上から真っ白なスーツを羽織り、インディアンの酋長が付ける羽根飾りの付いた冠を被った沢田が登場すると、場内から一際大きな歓声が起こる。
ザ・タイガース最後のステージのオープニングを飾るのは、「タイム・イズ・オン・マイ・サイド」。ファンにはたまらない絶妙の選曲だ。続いて「スージー・Q」、「アイ・プット・ア・スペル・オン・ユー」を歌い終えると、沢田がステージの前方へ進み出る。
「皆さん、今日わ!今日はようこそ、僕達タイガースの最後のステージを見に来て下さいました。本当にありがとうございます。えー、こんなに大勢の皆さんの前で、また、こんなにりっぱな会場で、最後のステージが出来ることを、僕達ほんとに嬉しく思います。僕達にとっても、皆さんにとっても、きっと美しい、素晴らしい思い出に残るようなステージをやりたいと思います。どうぞ、最後まで、皆さん、僕達と一緒に、ごゆっくりお過ごし下さい。」
沢田の挨拶が終わると、メンバーがそれぞれの持ち歌を披露する。トップはシロー、「青春の光と影」。続いて岸部の十八番、「ドッグ・オブ・ザ・ベイ」。森本は「イエロー・リバー」。そして場内の手拍子に合わせて、バック・ステージから瞳が中央へと進み出て来る。瞳お得意のナンバーは「ヘンリー8世君」。曲の途中で「ホワッド・アイ・セイ」を挟み、瞳と観客とのコールの掛け合いが始まる。
「どうも、今までありがとう。・・・・・どうも、ありがとう。・・・・・僕の生涯で、これが最後の舞台です。(場内は悲鳴のような大声援)・・・・・どうも、ありがとう。・・・・・最後の声出して!・・・・・最後の声出して下さい!」
瞳の呼びかけに、場内は「ピー・コール」の嵐。彼にとって、まさに最後の舞台に相応しい演出だ。「ホワッド・アイ・セイ」から「ジャスティン」そして「ヘンリー8世君」へと戻り、瞳最後のステージが完結する。
瞳への余韻が醒めやらぬ中、曲は沢田お得意のストーンズのナンバー「ホンキー・トンク・ウィメン」へと遷る。そして「コットン・フィールズ」。アシッド・フォークの騎手ドノバンの「ラレーニア」をシローがアコースティックでしみじみと聴かせる。続いて沢田が作曲を始めるキッカケとなったアダモの「ヘイ・ジュテーム」。そして「ギミ・シェルター」、「あの娘のレター」、「光ある限り」と続き、第1部もクライマックスを迎える。「エニバディーズ・アンサー」「ハート・ブレイカー」を、ステージに膝をつき、上体を後ろへ大きく(レイバック)反らしながら絶叫する沢田。場内が興奮の坩堝と化す中、第1部の幕が下りる。
続く第2部は、1部とは打って変わって、全員がお揃いの真っ白のスーツで登場。「都会」がオープニングを飾る。続いて岸部兄弟のアルバム「サリー&シロー/トラ・70619」より「白い街」「どうにかなるさ」、彼等の最後のアルバムとなった「自由と憧れと友情」から「出発のほかに何がある」「友情」「世界はまわる」と続いた後、リーダー・岸部が客席の2階席を指差し、その席で自分達がまだアマチュアだった5年前、揃いのユニフォームでビートルズを観ていたことを語り始める。そして5年経って、今度は自分達がそのステージに立っていることが、何か因縁めいたことのようであると語る。解散を決めてから今日までが、とても速く感じられたことを語りながら、次第に彼の声はトーン・ダウンしてゆく。
「さっき、あの、まだステージに上がる前に控え室で、みんなで、今日のステージが、すごく、あの、張り切ってやろうって言ってたんだけども、反面上がったら、もう終わりが近づいてくるっていう・・・・・・・・(絶句)。すごい辛いなあって、みんなで言ってたんですけど・・・・・・。」
涙声で語る岸部。そして彼が「一生、絶対、忘れない」オリジナル・ナンバーの演奏が始まる。「僕のマリー」、「シーサイド・バウンド」、「モナリザの微笑」と懐かしいヒット曲が続き、シローの歌う「花の首飾り」では、会場に加橋の姿を見つけたファンからどよめきが起こる。そして「青い鳥」では沢田とハモる森本が涙で声にならない。「銀河のロマンス」「スマイル・フォー・ミー」「淋しい雨」と続いた後、沢田が一息コメントを入れる。
「どうも、ありがとうございました。懐かしいオリジナル・ナンバーを続けて聴いて頂きました。なんか、非常に女々しくなっちゃいましたけども・・・・・。なんか・・・・・、あの・・・・・、すみません。なんか、皆さんが笑ってくれって言われてるみたいで・・・・。僕達が歌うよりも、なんか、皆さんに、たまには僕達も慰められてみたいと思います。では、どうぞ、お歌い下さい。」
「君だけに愛を」、「美しき愛の掟」、「素晴らしい旅行」、「怒りの鐘を鳴らせ」と続き、「誓いの明日」では沢田の「ヘイ、ピー!」のかけ声とともに瞳が迫力あるドラム・ソロを披露。そして、いよいよエンディングを告げる「アイ・アンダースタンド」のイントロが流れ始めると、場内は別れを惜しむファンの絶叫に包まれるのだ。
間奏の「蛍の光」が流れる中、沢田が万感の思いを込めて最後の挨拶を始める。
「皆様、ほんとに最後までご声援ありがとうございました。今、僕達の頭の中、また皆さんの胸の中で、僕達と皆さんとのいろんな思い出が駆け巡っているんではないかと思います。今、僕達はほんとに幸せです。いろんな思い出がありますけども、今、僕達が思い出してるのは、嬉しい思い出、楽しい思い出ばっかりです。皆さんも僕達も、この武道館の、このフロアの、上に、悲しい思い出は、みんな捨てて下さい。僕達も、楽しい、素晴らしい思い出だけを持って、再出発したいと思います。」
大声援にその声を掻き消されながらも、メンバーの一人一人を紹介する沢田。
岸部四郎、森本太郎、瞳みのる、岸部おさみ、そして沢田研二。」
一人一人に惜しみない拍手と大声援が送られる中、ついにラストの曲「ラヴ・ラヴ・ラヴ」が始まった。Lの字を作った右手を大きくかざし、最後の声を振り絞る沢田。そして少女達の絶叫の中で、3時間に亘るコンサートの幕は下りた。伝説のグループは、何かやり切れない後味の悪さを残したまま、四年間の活動に終止符を打ったのだった。