−暮れかかった後楽園スタジアムの上空に花火の炸裂する音が、雷鳴のようにとどろきわたった。
8月12日午後6時30分−ファン待望の夢の祭典「ザ・タイガース・ショー」の幕開きである。
この日の東京地方は、四国沖に停滞する台風の影響で、あいにくと雨模様。だが、開幕2,30分前までパラついていた雨も、スタンドをうめる約2万人のファンの熱気にのまれた感じで、すっかり遠のいていた。
花火が終わり、ナイター用の照明がともされると、夕闇につつまれ、それまでかすかにしか見えなかったステージが、ピッチャーズ・マウンドの後ろにくっきりと浮かび上がった。「THE TIGERS SHOW」の電光文字をあしらった金ピカのステージが、濡れた芝生のグリーンに映え、美しい。
尾藤イサオさんの司会で、まず、アメリカ第五空軍軍楽隊、梢みわさん、久美かおりさんはじめフォーメイツ、スクールメイツなど、ゲスト出演者が次々に紹介され、退場するとスタンドの歓声や拍手がひときわ高まった。いよいよ、趣向をこらしたタイガースのメンバーの入場なのだ。
トップをきって、まずトッポ。彼は白バイのおまわりさんに扮し、一塁側入り口から10台のオートバイを連ねて現れた。ついで、三塁側から入ってきたのは2丁の早カゴ。はて、誰が乗っているのだろう?場内が水を打ったように静まりかえる中で、先頭のカゴをあけた。ドーッと笑いがわく。カゴからころがり出たのは、なんと、なべおさみさんではないか−。ここで彼も司会に加わり、次のカゴをあける。中から抜け出たのは・・・・・さっそうとした旅人姿のタローである。サリーはピエロだ。像3頭をつれてノッシ、ノッシと登場。ダシに乗り、タイコを叩きながら、ピー。残るジュリーは魔法使いのおばあさんになり、テレビでおなじみのケロヨンくんと現れた。
全員が勢揃いした時から、スタンドは早くも興奮のルツボ。感激の涙で顔をクシャクシャにして絶叫する人、ハンカチをうちふる人、中には、失神した女のコもいた。しかしそれはなにもスタンドのファンだけではなかった。タイガースのメンバーの一人ひとりが、ファンと同じ思いに胸をふくらませていた。彼らは、それを演奏にぶっつける。
プログラムの第1部は、「ハロー・グッドバイ」「マイ・ジェネレーション」「ホリディ」など、主に外国ナンバーが組まれていた。中でも、照明の消えた闇の中でジュリーの歌う「傷だらけのアイドル」は最高だった。
ステージで跳ね、芝生に舞うメンバーの演奏には熱がこもっていた。そんな彼らが一塁側を振り向けば一塁側スタンドに、三塁側を振り向けば三塁側に、拍手と歓声がうずまき、ハンカチが乱れた。
第2部の始めは、一塁側に陣取った、なべおさみさんと、三塁側の尾藤イサオさんの応援合戦だ。「ガンバレ、ガンバレ、タイガース」尾藤側のスタンドが声援をおくれば、負けてはならじと一塁側もやりかえす。「向こうより、うんとガンバレ、タイガース」。
さて、その声援にこたえて現れたメンバーのいでたちは、トレーニングパンツにグラウンドコート。コミック野球チーム「永田キングス」と対戦しようというのである。ジャンケンで先攻することになったタイガースは、トップバッター、ジュリーがショート後方のヒットで一塁へ。続くサリーのデッドボールとタローのヒットで、ノーダウン・フルベースとし、4番打者トッポのホームランで一挙に4点を先取、あっけない勝利を飾った。
なべ、尾藤さんのイキのあった司会や、笑いがいっぱいのコント。それにゲスト出演者の歌や、演奏をなかにはさんでの「ザ・タイガース・ショー」だが、おそろしく時間のたつのが早く、プログラムはどんどん進む。いよいよ、メンバーのオリジナル・ナンバーを聞かせようという前に、彼らがあいさつに立った。
「生まれて一番うれしい日−それが今日です」とリーダーのサリー。ピーはいつもの茶目っ気を発揮する。
「ボクはちっちゃいから、早く帰っておねんねしたーい」
「ありがとう!ありがとう!」
と声を詰まらせ、感極まって涙を見せたのは、ジュリーだ。「お別れの時間は刻々とせまっていますが、最後までボクたちは一生懸命やります。どうか、いつまでも変わらぬ声援をお願いします」は声にならず、司会のなべさんの代弁だ。
ジュリーの言葉どおり、「君だけに愛を」「花の首飾り」「シー・シー・シー」など、オリジナル・ナンバーの演奏は、さらに熱を加えた。ファンはなじみ深い曲とあって、スタンドからコーラスがわき夜空にこだました。
「蛍の光」のメロディが流れるフィナーレでは、スタンドをうめるみんなが泣いた。そして、照明が消え、仕掛花火が「SAYONARA」の文字を浮き上がらせたあとも、彼女たちは椅子を立とうとはしなかった。「夢の祭典」と呼ぶにふさわしかった約3時間の「ザ・タイガース・ショー」それは、GSの人気を云々する世間の噂を見事にうち消し、GSが健在であることを示したショーだったともいえる。
いつまでも立ち去ろうとしないファンのどよめきの中に、「グループ・サウンズ、バンザイ!」「タイガース、バンザイ」の声を聞いた。−
以上が後楽園スタジアムで行われた彼等の野外ライブのレポートである。
彼等がアイドルとして初めて行った野外ライブのスタイルは、その後70年代にヒロミ、ヒデキ、ゴローの新御三家に、80年代にはたのきんトリオに受け継がれることになる。